くぐもったピアノみたいなお祈りのことばに眠る すぐそこへ野火
︎
くりかえし終わりをやりなおしているタイムループのようにD1
その上でみずからの子を望むとの意思の表示をもとめる用紙
目醒めるともうつかめなくなっている詩のひとひらのような確信
非線形 不連続性 まなざしもまたひとつではないということ
夏の木の影をたどって自分より大きな影だからやすめる
履歴書を霊歴書と書きそこね羊歯だったころどうだったかな
感情を撚ってゆくには紡錘がいる ほんものをみたことのない紡錘が
ヘルベチカ 飾り気のないあいさつで結ばれているくらいがいいよ
噛み合わせなんて気にして笑わないわたしの好きなにんげんの牙
きみという肯定をおくできるだけからだの中のあかるい場所に
︎
きたえられているつるぎの大きさよ かなとこ雲はばちばちひかる
トンネルの出口の雨が景色ごとなだれこむのにすこしすくんだ
いいまちがいゆえにひろがりゆくことば バロックをしてしまったみたい
エコーにはちいさな穴のようにみえ生まれてこないまま穴になる
カッターでダンボールの背を切りひらく肉のかわりにひとかかえの無
かたちにも飽きてしまった あしたにはスティールドラムの音になりたい
JR線にやさしくさとされて せんの うちがわ まで さがります
排尿のちいさきけらく生きるのは生きられるのはきっとよきこと
冷蔵庫からとりだした冷たさをフライパンに割りあたためてゆく
くるたびにアメイジンググレイスの喫茶店ひと月ぶんのゆるしをうける
ほとほとと雨雲たちの唾液ふる シューゲイザーといううすい皮膚
春というひとつの胎にいれられて生まれていないということの善
体内でひとつ氷期がすぎさって焚かれていた火が午前に混じる
クリューサーオールの系図 ペガサスを大伯父としているひとがいて
ひらかれているしいつでもこられるしこの音楽をお墓にしよう
スマートフォンの背中が熱いそれぞれの心のようななにかのありか
手ざわりのよさそうな雲とつぶやいてそのまなざしがなでる夕暮れ
わたしは 空を生んだのだとおもう 十年という月日をかけて
それぞれに丸まるねどこ明日にはおやすみなさいをまた持ち寄って
第67回短歌研究新人賞応募作から改作です。