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自選短歌(2018)

どうしても光を読んでしまうから目をとじたまま話がしたい
六月のからだに籠る風のこと hallucination とカルテは
あのひとを書きとめたくて辞書をひく はなかんむりは何画だろう
少女たちひとしく水でできていて水のひろがる速さで笑う
角砂糖ほろとほどけていくようにあなたはひとつ記憶をなくす
結晶をしているのかもしれないな 寒さのなかに寄り添いあって
てったーい、てったーいって遠くから うしろにはもうなにもない星
かくされたなみだのことを知っているあなたはもしかして月ですね
幹のない系図が空にぶらさがりときどき生きものを釣りあげる
幻獣のようなくせ毛だ撫でるときなぞのことばが打ち寄せてくる
昨年の土用の丑にウインターをたべたと記録にはある 猛暑
架空へとかけのぼるひと なきがらが光にかわる夢をみながら
いつの間にわたしは夢だったのだろうみしらぬものにゆさぶられつつ
この星のラジオに砂の降る音をはつかねずみは雨とよんでる
現実に画素のないことガランスのひとしずくの理さだかに知らず
きみが曳く影のみずいろ透きとおるきっと羽化したばかりなのだろう
文字はみな骨に似ている これが喉、と は の字をとりあげながら
きみはいまwhile(1){}のなかにいる通りすがりにそう告げられて
むかしむかしが会いたがってると伝えて、めでたしめでたしに
水をふとおそれるこころ いきものは水にうまれて水にとけない
雲間からひかりの滝は音もなくわたしのいない町へとそそぐ
やわらかい鏡になろうこの春の嵐もすべて映りこませて
メビウスにねじれた空のつなぎ目ののりしろである人のたましい
神さまがシーラカンスは生きていくから星座にはしないといった
世界から溢れるみずでながらえる塩の柱のとけた味する
いっせいに眼鏡がくもりわたしたちそいえば似たものどうしであった
弱ってるベテルギウスをかくまってこたつぽかぽか爆発までは
となかいのくつしたもらふ日曜日 右の足にも 左の足も
冬鳥がお腹すかせてつついたら欠けてしまった空のピクセル
DSC001.jpgと名づけらる 空 夏の終わりの
川岸にささげる花がないからと君がなげこむ燃える教科書
それでも わたしは泣いていなかった はじめて生き物を食べた夜
真夜中の雨がわたしを直してく 記憶装置のささくれなどを
よきものとわるきものとがこまぎれにふりそそぎます、ご安全に
おとずれは落葉の森の深くから 震わすように吹いてきた風
ネモフィラの青が好きだと思い出す 遠くに置いた月のよな青
熔鉱炉になった日すべて呑みこんだ釘もしっぽも(アンドロイドも)
長い長い平行線でいようわたしたち銀河へのぼる線路のように
ソラリスの陽のもとに会ふきみ(われ)ひとり海に荒れ野に家に世界に
闇市で売られる闇は四畳半ひとりぐらしにちょうどのサイズ