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地には人々

その場所の空の広さよ ひとよりも巨きなもので測られている
高校と家とをむすぶ鉄道の線は横田の基地をつらぬく
乗る時間より待ち時間長ければいつもお守りのように本を
非電化(ディーゼル)の移動図書室あしたにはどの一冊を持っていこうか
基地のなか行き過ぎるとき手の中のことばはひととき異国語となる
数行をいくども通りなおすこと 一日一日を読んでゆくこと
輸送機は降りくる『一方通交路』の活字も比喩もばらばらにして
勉強はしておきなねと声だけをのこして降りていった背中よ
ひきこもる部屋のなかでも一冊の本と未来へ運ばれていく
キーウ とあたまの中でくりかえす 歴史をほどきむすびなおして
地下鉄をシェルターにするひとびとの浅い眠りのなかへくる春
戦争に焼け焦げ横臥する列車その日もそれを走らせた人
トップガン基地の街にてみおわると観客席に拍手いくつも
滑走路でもあるのだろうこの道は見通しのよいまっすぐな道
単語帳手から落としそうにして眠る子たちへ渡しゆく星

第24回NHK全国短歌大会 近藤芳美賞にて栗木京子先生の選者奨励賞をいただきました。
選評でも触れていただいたとおり作中には30年ほどの年月が流れています。